意識高い系資本主義とは。

前のブログ『資本主義の終焉』を読んだお客様が、

この本も面白いので読んで下さいと『意識高い系資本主義が

民主主義を亡ぼす』を貸して下さり、何気に感じていた

グローバル企業のペルソナ(仮面)的な悪意を確認できました。 

著者はシドニー工科大学教授カール・ローズ氏で、

原題は『ウオーク・キャピタリズム』で直訳すれば『目覚めた資本主義』

ですが、訳者が意識高い系と意訳したのは皮肉で

善人を装う偽善者のことを『意識高い系』と表現したのです。 

もともと黒人の公民権運動の中で『ウオーク』が『目を覚ます』ことを

意味するスラングとして使われていた言葉でしたが、

今は別の意味を帯びて復活し表向きは意識が高いふりをして、

実は矛盾した行動をとる『偽物の進歩主義者』を非難する言葉として

使われるようになったのが『ウオーク・キャピタリズム』です。 

本の帯に『なんちゃって企業倫理の化けの皮をはがす・

地獄への道は社会正義で舗装されている』と書かれている通り、

企業価値を上げるために企業が気候変動対策・銃規制・人種平等・

性的平等などに取り組む姿勢を見せてアピールしているのですが、

これは消費者向けの建前の偽善的行為で売上げを上げるための

ポーズで、実は減税政策の恩恵を受けて更なる節税対策で

利益に繋げていることを具体的な数字を挙げて暴いている本です。 

現在のこのような構造は社会階層の固定化を生んでいますので、

民主主義の破壊を促進すると警告しているのです。 

社会の活性化には入れ替わり可能な機会の平等が担保されている

ことが必須で、民主主義の活性化とは中流層のボリュームが

厚い状況が維持されて初めて機能してするものなのです。 

現在の世界人口は八十億人ですが、その上位一%にあたる

五千四百万人の富裕層だけで世界全体の個人資産の四割弱を

保有している状況なのですが、コロナ禍でも最富裕層の所得は

好調でその資産額は三割弱も増えております。 

総資産一千億ドル以上の人は世界に二千百八十九人で、

その資産総額は全人類の六割の財産より多いという

富の偏在状況は異常事態で民主主義の存亡危機です。 

人間はどんなにお金を持っても食べるのは三食で、

乗れる車は一台で、寝る場所は一畳強で済むのですが、

きっと全ての領域で贅沢する欲望に取り付かれ搾取で増える

資産に全能感を伴う快感すら覚えているのでしょうが、

その資産は農耕や大工さんのように全て自分一人の労働力で

稼ぎ出しているものではありません。 

こんな歪な富の不均衡社会はローマ帝国のときに似ておりますが

放置するとローマ帝国のように内側から崩壊する危機を招きかねず、

現在はもう時期を逸しているほどの状況ですが

危機を回避するためには先進各国だけでも早く

大きな政府の力で資本家を抑制すべき時期だと思います。 

一例としてアマゾンは様々な納税回避策を講じており、

2010年は利益を上げてもアメリカでは法人税を払っておらず

2019年の利益は百三十億ドルでしたが

実効税率は1.2%という少なさです。 

しかし表向きにはアマゾンの元CEOのジェフ・ベゾスは

『気候変動と闘うために』と基金に百億ドルを寄付するという

偽善的な社会正義を実践して見せています。 

最初の『ウオーク』という言葉は社会正義を実践する

人達の合言葉になっていたのですが、近年は表ではその

社会正義に便乗して企業倫理の高さをアピールして

企業価値と株主価値を上げ、顧客の開拓と維持に

貢献させているのですが、裏ではあらゆる手段を使って

企業利益と個人の資産増大に血道を上げているのが実態です。 

『ウオーク』という社会正義を逆手にとって、企業が社会問題に

取り組む姿勢を演じることで、本音である企業利益に

結び付けている構造が裏側に潜んでいるのです。 

一般的に保守層は社会的弱者やリベラルな抗議運動に反発して

選挙で保守党派に投票しますが、企業に優しい保守党派の

伸長こそがグローバル企業にとってはプラスで、結果的に更なる

減税政策の恩恵を受け更なる利益に繋げているのが実態なのです。 

トランプ現象はその象徴的なものでしたが、偽装された新自由主義

によって社会には深刻な分断現象が固定化されるので、

結果的に民主主義の破壊が進んでしまうのです。 

本の中で『ウオーク資本主義』と呼ぶ企業の症例はアメリカと

オーストラリアでしたが、右手で消費者に蜜を与えて左手で

殴っているようなもので、私は日本の楽天の三木谷氏などは

このグローバル企業をあざとく真似た企業だと思っています。 

人間とは成功から学び模倣するものですので、

このような大企業のウオーク化が進む懸念は増していますが、

その懸念とは資本家の力の増大によって、その及ぶ範囲が

拡大することが社会の歪み拡大に繋がっており、

いずれ社会の不安定化が更に拡大していくことに繋がるからです。 

人間の持つ道徳性さえも企業資源として捉えて、一般市民から

搾取する方策に使い企業利益に繋げているとすれば、

民主的な根拠に基づいて政治的な規制をしないと、

公共の利益さえもグローバル資本に支配され搾取の対象なっ

てしまい、やがて資本主義の突然死による大混乱が巻き起こります。

社会を健全に持続させるためには繁栄を皆で分かち合えることを

目的にしていないと分断から内乱・内戦に繋がったり、

指導者の権力維持政策として内政の不都合の目をそらすために、

隣国を咎める戦争に繋がったりする危険も増大して行きます。 

レオナルド・デカプリオのように『意識高い系』のセレブたちが

気候変動サミットにプライベートジェット機で乗りつける様子を、

『彼らの政治的信念の信憑性とその一貫性については冷笑的に

ならざるをえない』と著者は書き、その行動の矛盾を突いています。 

著者はフェイスブック・グーグル・ネットフリックス・アップル・

マイクロソフトを『法人税逃れのならず者達』と表現しているのですが、その中でもアマゾンは『最大の悪党』と書いています。 

別な例としてナイキがその豹変ぶりで利益に結びつけた記述もあり、NFLの黒人スター選手が黒人差別に抗議して試合開始前の

国歌斉唱に膝をつき拒否し続けたのですが、当時のトランプ大統領が『あのくそ野郎を追い出せ』とNFLオーナーたちを煽った結果、

商業的利益を優先したNFLは次シーズンにはどこのチームも

契約しなかったので彼は引退に追い込まれました。 

追放された彼が『たとえ全てを犠牲にしても何かを信じろ・

ジャスト・ドゥ・イット』とツイートすると、ナイキは自分の所の

スローガンであるジャスト・ドゥ・イットに重ねて、彼を広告塔に使い

『ドリーム・クレイジー(とことん夢を見ろ)』というキャンペーンを

展開したところ、株価が上昇して時価総額で六十億ドル増え

成功を治めたのですが、この行動によって企業は政治的に

正しい方が儲かるということを学んだのです。 

ナイキは彼の政治的な信念を利用して商業的な利益に

繋げるということを学び、他企業も誰かが作り出した流行に乗って

利益を上げる目的で有名人に高額な対価を払っても利用する

価値があるということを学び模倣し始めました。 

しかし著者はナイキが実際に行っていた低賃金労働者に

違法な労働条件で酷使する『搾取工場』のことを問題にしており、

大企業・資本家が『右手で正義を左手で悪魔の所業』をしている

と多くの偽善行為を暴いています。 

この時トランプは資本家は労働者を支配できるが、

政治的主張は経済的リスクを伴うとナイキを脅したのですが、

ナイキは経済的なベネフィットを手に入れたのです。 

このような流れを受けてNFLは国歌斉唱の前に『黒人国家』を

演奏することを決めたのも、時流の変化を読み商業的ビジネスを

優先したためですが、この裏側には2020年5月のジョージ・フロイド

暴行殺人事件による世論の圧力があったからで、この世論に

迎合して事件から三年後に豹変したのも経済的な利益のためです。 

この事件が全世界に広がると、あらゆる企業が反人種主義支持声明

を出したのですが、著者は国民感情へのあからさまな迎合で

中身の伴わない『売名行為』と述べ、企業利益を増大させるために

黒人の抵抗さえも利用する資本主義の拡大は、労働者からの

肉体的な搾取だけでなく、労働者の闘争・政治・思想・精神まで

搾取しようとしていると述べて警告しています。 

国家とは➊公的部門((政府・警察・司法・学校など)➋営利企業

❸非政府公共機関で構成されているのですが、

著者が民主主義の破壊に繋がる懸念の理由は、

資本家の影響力の拡大がこのまま進むと、公的・公共的な

➊と❸の仕事まで➋の営利企業に代行されてしまい、

国家の全領域が私企業の手中に治められ全てが

『どれくらい儲かるのか』に集約されてしまうので、

公共性の平等が犯されて公益そのものが健全な形で

維持することすら危うくなるという警告です。 

現に学校などは資本主義に犯され、親の所得に子供の

偏差値が比例しており、この現象によって貧困と階層の連鎖が

一段と進んでいることが明確になっています。 

前のブログにも書きましたが、国家の全領域が私企業に

従属することに繋がるこのような事態は異常で、非民主的な

社会の進行は社会の不安定化による犯罪の多発に繋がり、

プーチンのように不支持による内乱や暴動から目をそらすための

他国攻撃など戦争への危機も増大させています。 

世界で最も裕福な超富裕者百人の富の合計は

七千四百六十億ドルで、これはスイス・スエーデン・タイ・

アルゼンチンのGDPより多い状況で、この事態を放置すると

企業所有者である彼らが『公共の福利とは何で、そのために何を

すべきか』の決定権すら国家から奪う事態に陥ってしまいます。 

その方が民主的な方法より迅速で確実に政策実現できるのですが、

その条件とは『彼らに絶対に損をさせない・富裕層を維持できる

システムに手を付けるような改革はしない』ことで、

その条件さえクリアーできれば気前よく大金を贈与するのです。

ビル・ゲイツとウォーレン・バフェットが社会貢献キャンペーンを始め、

イーロン・マスクとマーク・ザッカーバーグも賛同して数千億ドルの

富を拠出することを誓ったことなども、初発の動機は善良だが、

この規模の慈善事業を担う国家がなければ、彼らが国家の代理を

つとめることになると警告しています。 

これらからハッキリしているのは、意識髙い系の資本家は

どんな時でも第一の動機は経済的な『いくら儲かるのか』で、

政治はその動機を支える場合にしか価値がないということです。 

日本の場合は米国のような巨額な個人資産家がいない 

サラリーマン社長による意識低い系資本主義なので、

皮肉なことに反対の意味で公共性の平等が犯され続けており、

民主主義の破壊が静かに進んでいる状況だと思います。

最近は電子化された医療情報や個人の体調管理の電子情報も

クラウド化されていますが、グーグルのような情報管理会社が

これらの個人情報を分析し医薬品会社や医療機関や社会福祉施設

などに売買しているだけでなく、年金などの社会福祉領域全域へと

食指を伸ばし国家領域への侵食は確実に進行しています。

『資本の論理』が幅を効かせている時代から、『資本の倫理』も

社会的に問うべき時代へと早く移行しないと、政治的介入による

企業の不正や搾取による格差拡大は止まらないと思います。