資本主義の終焉。

およそ五百年前に中世封建制から近代資本主義に

移行したような、次の新しい時代への転換点である

資本主義終焉の時代が迫っている予感がしていましたが、

そんな時に経済学者・水野和夫氏の『資本主義の終焉と

歴史の危機』を読み、五十年後位までにもう成長しなくても

やって行ける経済への移行という使い回しの効く定常経済時代

訪れを予測していました。

資本主義とは資本家が投下した資本以上の利益を上げることで

企業が存続・膨張し続けるシステムですが、それは企業に

利益をもたらす対象である豊かを求める国民や新興国の

人口増加という存在があったから続いたシステムだったのです。 

貧しい新興国では国内に豊かさを求める国民が沢山おり、

物が飛ぶように売れ企業が成長・膨張するという

国民と資本家の利害が一致した健全な形で発展したのです。

科学技術の進展で次々に国民の欲しい新しい物が提供され

続けましたが、先進国ではもう飽和状態になっており

フロンティアであった新興国BRICS(中国やインドなど)も

急速に豊かさで満たされ始め成長の限界が見えてきております。 

グローバル経済とは国内市場が飽和状態になってきたので、

まだ物が行き渡っていない新興国を新しい市場として物を売る

対象として編み出した思想ですが、これは先進国家と資本家の

利害が一致し、新興国の国民も豊かさを享受したい願望が

一致していたから急速に経済のグローバル化が進んだのです。

しかし中国の経済発展のように東アジアも急速な豊かさが進み

飽和状態になると、残されているフロンティアはアフリカだけの

状況で、今ではマサイ族でもスマホを持っている時代に

なっている世界的な飽和状態を迎えています。 

牛を放牧し牛肉として利益を上げるために牛の頭数を増やし

続ける欲望の資本主義は、次々と牧草を求めて砂漠化する

現象が起こっても成長を追い続ける危険なシステムなのです。 

先進国の異常な格差拡大の原因は、企業が収益を上げる

フロンティアが飽和状態になり物が売れなくなった中でも利益を

確保するための邪悪な方策の結果で、効率化という大義名分で

労働者への賃上げをせずに過剰な労働を強いるという

人件費圧縮を行い続け、その人件費削減分を企業利益にした

結果として中間層が没落し更なる格差拡大に繋がったのです。 

初期の資本主義では国家に資本家が従属しておりましたが、

現在は国家が資本家に従属しているような異常な状態に

なっているから、どこの国でも資本家に迎合した法人税の

減税競争をし、消費税などで個人に増税しているのです。 

新興国の中国・インド・ブラジルが今の先進国並に豊かになり

多くの中産階級を生むと、電力消費エネルギーが四倍も必要

になるそうで必然的に原油価格が上昇するのですが、

封建制から資本主義に移行した転換点の時も現在のように

あらゆる物の物価上昇が起こっていたそうです。 

原油の高騰原因はもうひとつあり、実物経済で利益を

得られなくなった資本家が電子金融市場を作り、

マネーゲームによる資本主義延命策にしたことも背景にあります。 

近年の原油の異常高騰は供給ショックではなく、

量的緩和策によって行き場を失った投機マネーが

電子金融市場の石油先物価格を上昇させた結果です。 

つまり金持ちが雪ダルマ式に太り、その金持ちが搾取しているのは

高騰した石油を消費している消費者からで、行き詰った

資本主義の発展形態がもう資本家と国民の利害が一致しない、

資本家による国民からの搾取の形に変貌しているのです。 

電子金融市場の発展の一番の危険は、金融市場の利益は

必ずバブルを生み崩壊を繰り返すことですが、バブル崩壊のとき

銀行や大企業を救済するのは国民の税金で行われています。 

サブプライムローンは低所得者への無理な住宅需要を創出し、

貸し付けた住宅ローンを証券化してウォール街が利益を独占

した結果の破綻で(今の日本の住宅ローンの実態は似ている)、

リーマンショックは電子金融市場が生み出したバブルの崩壊

でしたが、バブル崩壊後は政府が超低金利を導入しますので

企業は超低金利による利潤の低下をリストラと賃下げで対処

しますし、企業は例え倒産しても昔の経営者のように無限責任

ではなく、資本金の範囲内に留まる有限責任で逃れられるという、

株式会社の形態そのものが資本家に有利にできているのが

資本主義なのだと私は解釈しています。 

福島原発事故後に東電経営陣のひとりが退職金を持って

租税回避地に逃げて、悠々自適の生活をしているような

不心得者がいるのも役員が有限責任だからです。

日本では労働規制を緩和し非正規雇用を増やしたのですが、

浮いた社会保険料や福利厚生費を企業利益にするためです。 

グローバル資本主義とは資本家の欲望のために創造したもので、

企業は国境を越えてより安い賃金に生産拠点を選べますし、

国内的には雇用の流動化のもとに解雇し易くしたうえに、

二千年頃から労働者への賃金分配率を下げ続けたので、

企業の内部留保だけは膨らみ続けた結果として先進国内では

格差が拡大し続けたのです。 

基本的に資本主義とは搾取する対象が必要なシステムなのですが、その誕生以来少数の人間が利益を独占するシステムで、

グローバル資本主義は国民の均質性を破壊し、

国家の内側に少数の中心(富裕層)と多数の周辺(中間層の没落)

という格差を作り出して行く増殖システムなのです。 

水野氏の統計グラフを見ると、資本主義体制下では世界人口

のうち豊かになれる上限定員は十五%前後で、

残り八十五%の国々の人達からエネルギーや食糧などの

資源を安く輸入して利益を享受し繁栄してきたのが判ります。

このような資本主義が延命できたのは、資本主義の暴走に

ブレーキをかけたアダム・スミスやマルクスやケインズという

経済学者がいたからと述べていましたが、現在のように

資本家に従属した国家では国民を守る政策を提言する

経済学者は疎まれ抜擢されないので暴走による終焉は速まります。

国家が資本家に従属している逆転現象に似たことは、

人間が開発したAIとの逆転現象が及ぼす危機も起こりつつあり、

AI技術を駆使したチャットGPTを使うとフェイク画像を簡単に

作成できるだけでなく、ある単語を入力すれば正確で見事な

論文すら作成できるなど、人間の個人的な能力を超えた

AI技術の悪用が及ぼすであろう様々な危険も予測されます。

経済成長が良いものでないことは成長率の高い国のリストを

見ると判り、1位と2位は内戦の続く南スーダン・シュラレオネで

3位は内戦と軍事独裁クーデターが続くパラグアイで、

カダフィ大佐が殺害されたときはリビアが1位でした。

この理由は戦争による破壊からの復興需要が一番経済成長に

貢献するからで、その上に戦争で使用される武器と弾薬こそ

軍需産業を肥えさせ経済成長に貢献しているのです。

人口減少は世界的にも目前に迫っており、水野氏は

  新興国だった中国の一人あたりGDPが日本を抜く地点が

  資本主義の限界点になると思うと書いていました。 

  民主主義の発展とは、実はその国の国民の多くが中産階級化

  することと連動しており、民主帝国アメリカにおける現在の

  国民の分断現象はこの中産階級が没落したことが原因です。

  アメリカがこのような中産階級没落を放置すると分断危機から

  南北戦争以来の内戦への危機を示唆する学者もおりますが、

  合衆国であるアメリカは州の法的な権限の独立性が強いので、

  トランプが復活したり白人中間層の没落が今後も続くようだと

  私は可能性は上昇すると思います。 

  自由と平等は相性が悪いように資本主義と民主主義の

  相性も悪く、自由と資本主義の力が強くなり過ぎると

  平等と民主主義は衰える方向に向かうのだと思います。 

  格差拡大による先進国の過剰マネーは、新興国の過剰設備を

  生み出してデフレ圧力をかけ石油資源の先物価格を押し上げ

  物価高に繋がる負のスパイラルを生んでいるのですが、

  ロシアのウクライナ侵攻は穀物価格の上昇を生んでいますので、

  世界的に資源と食料の争奪戦に繋がる危機も孕んでおります。 

  皮肉な話ですが地球上の全ての人が資本主義の恩恵を

  受け豊かになったときが、資本主義が収奪する対象を失う

  終焉のときになることです。 

  中国の成長が止まりバブルが崩壊すれば、中国は

  アメリカ国債を売りますのでドルの崩壊も連動して起こるという

  アメリカ資本主義の終焉を早める未曽有の事態も想定されます。 

  このような危機を回避する手立ては水野氏も持ち合わせていない

  と正直に述べておりますが、日本の危機をソフトランディング

  させる方策は国家のプライマリーバランスをいち早く整えることで、

  ゼロ金利・ゼロ成長・ゼロインフレの定常経済社会を

  確立することが処方箋に成り得るそうです。 

  アメリカの言いなりで国防費を増やして過去最大の

  国家予算を成立させましたが、巨額に膨らんだ国債の消化が今は

  銀行や生保や個人資産ではなく日銀が買い支えていますが、

  この異常事態を早めに解消するための最善策が

  プライマリーバランスを整えることです。 

  幸いに日本国民の貯蓄は巨額で自然資源にも恵まれているので、

  資本主義終焉の危機をソフトランディングさせる定常経済への

  移行は可能ではないか? 述べていました。

  鎖国をしていた江戸時代は完全な定常経済の時代でしたが、

  諸説ある江戸の人口が百万人としても、循環システムを駆使して

  約二百六十五年間も定常経済で廻していたのです。 

  もうアメリカの属国として振る舞う政治姿勢から脱却して

  日本国民のための政治姿勢に転換すべき時で、

  危機に備えて軍事費より自然エネルギーへの投資や

  農業や酪農など食料とエネルギーの安全保障政策充実が

  未来世代のために大切だと思います。 

  地球環境も含めてもう凶暴な欲望の資本主義を手放しても

  民主主義を守るべきときで、そのためには企業利益の為に

  労働弱者を食い物にするような『共食い状態の搾取』を止め

  適正な労働分配率維持を国策として進めて中産階級の

  没落を防ぎ、市民社会と国民主権を守る健全な民主主義へ

  移行し発展させることが国民国家維持に不可欠だと思います。

  資本主義の暴走を止めないと国民国家の存在すら危うくなり、

  紙幣がただの紙切れになる危機すら訪れると思います。

  かって池田勇人首相の経済ブレーンで所得倍増と高度成長を

  成功させた下村治氏は、国民経済とは一億二千万人の雇用を

  確保し国民全体の所得を上げて国民の生活を安定させる事で、 

  その実現のためには自動車のような生産性を上げられる業種と、

  農業のように生産性が悪い業種でも国民経済の為に維持すべき

  ものがあるのは当然なのだと言い切っています。

  一部の富裕層のために効率と生産性を当然のように口にして、

  大多数の労働者から富の収奪を計る現在の資本主義経済は、

  形を変えた封建制の階級社会に変貌しているのですが、

   これを批判し『完全雇用は経済成長に優先する』という

   下村治氏のような常識論を声高に叫ぶ経済学者が少ないことも

   国民国家としての末期症状だと思います。

   時代とはある周期で転換してきたのが人類の歴史ですが、

   私の好きな人が本の中で『資本主義はその絶頂期において

   突然死を迎えるように構造化されている』と書いていましたが、

   その突然死の時期が確実に忍び寄っていると思います。

   定常経済へのソフトランディングは一見SF的のように思われますが

   もう人間が人間を食い物にするような搾取・競争社会から脱皮して、

   怠惰を戒めるほどほどの競争と、弱者も共生できる

  ほどほどの豊かさで持続可能な社会を目指すことが、

  環境と資源を守るという未来世代への責務と思います。