自由・不自由・孤立・格差の相関関係。

OECD(先進国37カ国加盟)の国別調査によると、

日本の孤立度がランキングトップという結果が出ており、

この孤立こそが自殺・鬱病・認知症等や無差別殺傷事件の

多発にも繋がっていると私は思っています。 

政府統計によると高齢者の四人に一人がひとりも友達がいない

そうで、豊かになるに連れて地域社会の崩壊が急速に

進んでいるという逆説があります。 

物質的な豊かさを手に入れるほど精神的な豊かさが失われ

ている理由は、利己的な自由を手に入れると孤独になり

孤立が待っているという自由と孤立の相関関係に気付かないで、

現代の人達が安易な自由を求め過ぎた結果だと思います。  

孤立の反対語は連帯・連合・関係・群れなどになると思うのですが、

家族や地域で連帯した関係を維持するためには煩わしい干渉

や気配りが付きものなのですが、この干渉されるのが煩わしく

気配りが面倒だからと自由と仕事を求めて誰もが都会へと

出て行ったのですが、自由の意味を履き違えたわがままな

自由の先に待っていたのが孤独で、気が付くと他者との

交流を失った孤立だったのです。 

親の干渉が嫌で家を出て行くと、生活のために収入が必要で

働かねばならず炊事・洗濯・掃除も自分でしなければならず、

働けば上司や周囲への気配りも必要になり

新たな義務と責任と干渉が待っているのです。 

わがままと自由の違いに気付かない人が多いのですが、

本当の自由とは義務と責任を果たした上で手に入れる権利で、

これに気付かない人はどんな状況にも不満を言い続けるので、

家庭でも職場でも社会的な場所でも嫌われています。

義務と責任を放棄した間違った自由こそが、

実は自らを孤立へと追い込んでいる事に気付かないと

決して抜け出せないアリ地獄です。 

私がリハビリの病院にいた時には炊事・洗濯・掃除・雪はねもなく

病院内も安全に歩ける自由がありましたが、反対に不自由なことは

刑務所と一緒で時間的・行動的な面では全てが制限されました。 

退院すると時間的・行動的な自由を手に入れましたが、

その代わりに炊事・洗濯・掃除・雪はねなどの義務と責任が

発生しますし、雪はねや買物では安全に注意しないと

また病院に逆戻りの危険が待っています。 

つまり何かしらの自由を手に入れたら、何かしらの不自由を

背負わないと真の自由は手に入らないのが生きることの宿命で、

義務と責任を果たさず我が儘な自由を平気で主張して

いる人が多いから日本は孤立度トップなのです。  

地域社会の崩壊なども同じで、ご近所付き合い等でも

嫌なことや嫌な人の我慢も必要悪として認めることで、

全ての人が良い人ならば警察も法律も必要ではなく、

犯罪にならない程度の嫌なことや人を受容する所から始め、

気配りと干渉の忍耐をある程度しないと孤立を防ぎ

連帯する地域社会にはならないと思います。 

地域社会の崩壊は高度成長と共に日本が豊かになるに

連れ進行したのですが、それは貧しい時代には

ご近所の協力をお願いしなければならなかったことの

全てがお金で解決できるようになった事が孤立の素因です。 

お金さえあれば他者の協力など必要ないと考える人が増えて、

多少の嫌な事も我慢せず干渉から逃れ自由に暮せると

考えるようになった結果が孤立の蔓延だったのです。 

高齢になり伴侶を失ったり独身で両親も他界したりしたような、

本当の一人身になり収入も限られた状況になるまで

自覚できない想像力の欠落だと私は思います。 

自由と孤立の相関関係は、不自由や干渉を受け入れないと

地域社会の連帯や家族の良好な関係は維持されない所にあり、

心にいつも『お互い様』という気持ちを持って相互に思いやりを

持たないと孤立しない良好な関係は築けないものなのです。

豊かさと共に未婚者が増えていますが、誰も愛さなければ孤独で

誰にも愛されなければ自由なように孤独と自由は表裏なのです。 

経済的な格差と自由の相関関係なども、新自由主義という

自由競争の範囲をどんどん拡大しているうちに、

経営者と従業員の連帯や連合より利益優先の搾取が当然

として行われるようになったからで、結果的には金銭的な

打算の繋がりのみの個人主義が進み、経済的勝者と敗者に

分断され猜疑心と不信感が増幅されたので、安全装置

としてのお金を誰もが求める精神的病理に陥っているのです。 

人間とは社会的な動物で心が通い合うことに生きる喜びと

意味を見出している生き物であることを忘れて、

お金で幸せを手に入れられると錯覚した現代人は

金銭的な動物に成り下がったように思えます。

お金持ちの離婚や地位と名声を手に入れた有名人の自殺など

が起こるのも、金銭的な繋がりだけでは心が満たされないからで、

思いやりの贈与と返礼による心の絆こそが人間の

生きる力を育んでいるのです。 

歴史的視点で見ると日本の格差拡大の引き金になったのは

オイルショックで、それ以後企業は年功序列制度を捨てパートと

非正規を増やすという雇用調整で生き残る道を選択しました。 

バブル崩壊後の不況から非正規社員が大幅に増加したのは、

小泉内閣が派遣法を改正し製造業にも解禁したからで、

その後リーマンショックや今回のコロナ不況と続きましたが、

いつも企業は不況対策の生き残りに弱者を切り捨ててきたのです。 

一部の富裕者層はいつも安泰で貧困層が犠牲者になる構図が

常識化しましたが、今のような富裕と貧困が世代連鎖している

社会に活力は生まれませんので不況は続き、

およそ九百万人に膨らんだ非正規社員という貧困層の

個人消費は減少し続けましたので経済回復が果たせないのです。 

経済成長の指標であるGDPにおいて個人消費は約六割を

占めているのですから、ピラミッド構造の頂点の一部の

富裕者層が消費するより、範囲が広い下層の人達の

賃金上昇消費を促進した方が経済成長に寄与します。 

過去の高度成長はその循環があった事と、正社員による

年功序列制という安全装置への安心感が働いていたから

個人消費が拡大し経済成長したのです。 

富の集中は格差を拡大し個人消費を冷えさせるから

経済成長には繋がらず、コロナ不況なのに株価上昇している

のは金余りによる一部資産家層の欲望の肥大なので

火傷した方が良いのですが、いつも強者は保護され

そのツケは弱者切り捨ての構図が先進国の実態です。 

著名な経済学者が言っていたのですが、株や債権などの

無形資産が力を持つ社会では、格差が拡大し不況からの

経済回復はできないとのことです。 

九百万人に膨らんだ非正規と無業者を合わせると

千二百万人に達した日本の現状は危機と言っていいと思います。 

オイルショックから始まりバブル崩壊・リーマンショックに

現在のコロナ不況と階段を滑り落ちように続き、

ばらまきで国家財政は悪化し続け失われた十年と

言っていたのが失われた三十年にもなっています。 

シンクタンク二十一世紀政策研究所の予測では、このままでは

労働人口と資本ストックの減少によってマイナス成長に陥り、

二〇五〇年には日本は先進国ではなくなると述べていますが、

その根本原因は富の集中による格差拡大なのです。 

富を持つ者が他者への分配を拒み自分の利益を優先する行為が、

実は消費を冷えさせ経済成長に繋がらない悪循環を生み、

自分で未来の自分の首を絞めているのです。 

企業業績に貢献した従業員への贈与こそが新たな消費を生み、

その果実として次の企業業績向上に繋がるという好循環

生んで行くのです。 

もう労働人口減少の影響を企業は実感し始めていますが、

貧困は未婚者を増やし子供作りも制限しますので、

企業が忘れた頃に格差拡大のツケがブーメランのように

労働力不足として必ず舞い戻って来ます。

 一番身近な結婚などは育った文化の違う者同士が一緒に暮らし、

 育った文化の違うお互いを容認し協力し合って連帯する

 関係作りですので、常に干渉や制約を受ける不自由の覚悟が

 必要なのですが、最近は家庭内に自己犠牲という高潔な愛が

 欠落しているからDVや虐待報道が増えたのだと思います。 

 企業でも個人でも相手の犠牲の上に自分の自由だけを主張して

 いるようではエゴの搾取で、それでは人という字が示す支え合う

 相互扶助の関係が保てないので壊れるのは当然で、

 そのような人は人という字に相応しくない人達ですので

 私は『人でなし』と呼ぶことにしています。 

 真の自由とは、相手への思いやりとして些細な不自由も

 受け入れてから手に入れるもので、孤独や孤立の減少や

 解消には他者への贈与を心がける人を少しでも増やすことしか

 解決策はないと思います。

 社会や家族が支い合えるような関係作りを推進し、

 搾取が横行している社会や家庭から『人でなし』を減らした

 孤立度が一番少ない国はオランダです。 

 今はもう物質的には充分に豊かになった社会の中で、

 人間の最も醜い心のエゴから抜け出し、

 最も尊い自己犠牲を伴う愛への道が孤立と格差の解消ですが、

 日本がモデルにすべき国は北欧スエーデンです。

 高福祉高負担の大きな政府の国ですが、例えば日本で

 社会保障費というと年金・医療・介護などの高齢者を思い

 浮かべますが、スエーデンではこの割合は五十%で残り半分は

 保育・子供医療・職業訓練・失業保険・育休手当など

 現役若者世代にも充てられているのです。

 日本ではここ二十年ほど賃金上昇していませんが、

 スエーデンは経済成長も賃金上率もトップクラスなのは

 若者世代に与えている安心感なのだと思います。

 明治維新も二十~三十代の若者達の奮闘で成し遂げられ、

 高度成長も若者世代が何者にもなれると錯覚できた社会制度

 だったから先進国へと飛躍できたのだと思います。

 いつの時代でも若者世代に安心感を与えた国こそが

 活力みなぎる国になるのですが、その始まりは意外に若者達の

 自国への絶望感が出発点だった私は思っています。

 暗い世相に沈んでいる間はまだ国は滅亡しておらず、

 危機感を持ち奮闘する若者達が出現すれば夜明け前

 と捉えることができます。

 様々な問題点は渦中の中央にいると見えず流されていますが、

 渦の外から見ると全てを俯瞰して捉えられます。

  市場任せの欲望の資本主義が生んだ格差拡大・孤立と

 孤独の増加・富と貧困の世代連鎖などの弊害是正には、

 明治維新の時と同様な国家の介入で財閥解体や富の再配分

 で利害調整を是正すべき時期で、資本主義の弊害是正のため 

 に大きな政府が必要な時代を迎えているような気がしています。

 明治維新は薩摩や長州など歴史的な変革はいつも辺境から

 起こっており、世界的な新しい思想なども辺境から芽吹いて

 来ましたので私は北欧諸国の大きな政府に注目しております。