監視資本主義社会。

ハーバード大学名誉教授のショシャナ・ズボス氏の『監視資本主義の時代』の著書では、デジタル時代の見えざる罠が民主主義を蝕んでいる危機について警鐘を鳴らしております。 

それは主にグーグル・フェイスブック・マイクロソフトを主な対象に述べていますが、今はデジタル企業全てに当てはまると思います。 

簡単に言うと今までは自然界の素材を加工し商品にして販売していた産業資本主義社会だったのですが、デジタル社会になってからは

全ての人間のデジタル行動(SNS・カード決済履歴)を分析し

消費行動を予測し誘導しており、そのデジタル個人情報を物販企業

販売して巨額な利益を上げているという趣旨です。 

このような情報は物販だけではなく、選挙における浮動票の人達

フェイクをSNSに投稿し投票行動を誘導するなどの手法にも

使われており、米国の選挙では実際にフェイスブックのアプリを

利用したと疑われ裁判にもなっておりますし、日本では十月の

衆議院選挙でもフェイク情報が投稿されておりました。 

一般の人達が買物で何を買ったか? どのような投稿をしているか? 

ネットでどのようなサイトに多くアクセスしているか? などを

AIで分析し、次にどのような物を買いそうか? 

どのような思想傾向のある人物か? どの程度の収入があるか? 

などの分析結果情報を物販大企業や政党に販売して

巨額の利益を得ていることが行われているのです。 

一般の人がカードで買った商品データーやアクセスデーターが

素材なので、無料の情報ですから収益率は異常に高く

物販企業側は喉から手が出るほど欲しい販売情報ですし、

広告宣伝費より確実な上にターゲットが明確な情報ですから

非常に価値があります。 

つまり個人の毎日の人間行動そのものを追いかけ把握して

次の行動を予測し収益に変えているのですから、これを

『監視資本主義』という言葉で表現していることが頷けると思います。  

この監視資本主義社会では消費者がこれから何処へ行くのか?  目的地で何をするのか?  途中どこに寄るのか? などの

予測行動が可能になり、その予測情報が確実な販売促進と

収益に繋がるから高額で取引されているのです。   

グーグルが編み出した『データー抽出と予測』という手法を学んだ

IT企業家達は、今までの行動を基に未来の行動を予測する方法を

巧みに編み出しただけでなく、アリ地獄のようにゲームや

ユーチューブなどから抜け出せなくする手法も編み出しており、

便利さの裏側に隠されている不安を助長させてスマホから

目が離せなくさせる手法もゲーム企業やその他の企業に

売られているのです。 

休日や仕事帰りに寄る場所や友人と行く場所や洋服やコーヒー

買う場所まで、オンライン上のアクセス先も含めて

デジタル監視で把握しています。 

例えば妻が妊娠したと友人にメールすると、出産やベビー用品

ビジネスに繋がるので、出産前後の商品情報を巧みに流し

誘導する方向へと変換しているのです。 

全てのイノベイションは利便性を高めるので歓迎されるのですが、

人々のあらゆる体験が監視され利益のために収集されていると

すれば、プライバシーだけでなく自由意志さえも誘導により

手放され監視されており、全ての人間行動が情報把握者の

利益に還元されていることになります。 

スマホやパソコンなど全てのデバイスから集めた情報を利用して

今行われていることは、ターゲティング広告によってグーグルが

企業利益を拡大して来たことよりも、もっと危険で大きな人間

への支配概念が内包されており現在も進行していると述べて

おりましたが私も同感です。 

このままの監視資本主義体制が続いたなら、やがてこの情報格差

によってごく少数の大金持ちと大多数の貧困者へと格差が更に

拡大して行くだけでなく、デジタル領域が現実の領域を支配し

搾取・操作し始めるので国家体制すら凌ぐ脅威に繋がる恐さ

も感じますし、デジタル企業家が陰のファシストにもなり得ます。

現にアメリカでは巨大IT企業が巨額の資金を使い、自分達に

不利な法案の阻止や有利な法案作りのロビー活動(議員買収)を

活発に行っているそうで、その資金は五十億円に達しています。  

現在の社会はインフラ整備から医療・治安も含め全てはデジタル

機器との接続で成り立っており、ほぼ全ての個人もスマホを含めた

デジタル機器との接続を避けられなくなっている時代ですので、

もうデジタル化は後戻りできない状態になっています。  

このような消費者の行動監視と予測を許し続けることは、

情報把握者が常に利益的に有利になる一種の権力に繋がって

おり、彼らが都合よく社会をコントロールする場所に改変する

ことが可能になる恐ろしさを内包し現実に行われているのです。 

その例となる有名な事件は、ケンブリッジ・アナリティカという

政治マーケティング会社が、フェイスブックの性格診断アプリを

使う人達の情報から友人も含めた情報を引き出し選挙で不正に

誘導した事件で、巨大なプラットホームを持つIT大企業が様々な

情報を元に人間の行動を巧みに誘導できることを証明しています。  

フェイスブックはこの事件後に友人などの情報を漏れないように

対策を強化しましたが、様々なアプリ氾濫の時代なので抜け道は

沢山あると思います。 

この本で警告したズボフという人も解決策を明確に述べて

いないのは、インターネット上全ての情報を体系化し誰でも

アクセス可能にしたグーグルの野望が達成されている現在は、

社会体系も市民も消費行動も完全に変容させられているので、

もう後戻りができない状態だからです。 

私が買物に行っているスーパーではカード決済の人には

5%引きの日が多くありますが、それはそのスーパーのアプリで

特売情報がスマホへとメールされ、その特売情報を見て今日

買おうと思っている物が入っていたら行ってしまう誘導で、

買物内容はデーター抽出と予測の素材情報にもなりますので、

5%引きはその返戻金のようなものです。 

現代人はメールを見ないではいられなくなっておりますし、

5%引きにしても来店してくれたら他の商品も買いますので、

他店に行かれるよりトータルで利益に繋がるからです。 

それでも私は現金の持ち合わせがない時とガソリン以外に

カードは使っていませんが、その理由はまだパソコンが

百二十万円位したときの購入時、まだリース契約の信用判定が

厳しい時代でしたが翌朝に審査が降りたとの電話があり、

昼頃契約のためついて来た上司に個人情報なんて駄々漏れ

なんだね! と言うと意味深な顔で目は頷いていたからです。 

その少し前にこの土地を購入し店舗を建築した時も、

まだ銀行審査と税務署の監視が厳しい時代でしたが

銀行などの金融機関と税務署の持つ個人情報の暗黙の影を

感じましたが、今はこの数千倍の個人情報がAI分析され、

カード購入商品の分析から収入や家族構成や人間性まで

仕分けされているのだと私は思っています。  

今は全ての業界で信用調査も売上を上げるために緩くなって

おり、かなりリスクが有る人でもローン審査を通します。

政府も景気浮揚策として消費を上げたいので住宅建設優遇税制

を続けており、銀行なども貸出先に困っていますので

住宅ローンはよほどのブラック顧客でない限り審査を通します。 

ここでもデジタル監視で把握した情報は利用されていますので

信用度によって金利を変えておりますし、破綻しても不良債権者

の立ち退きから次の顧客への販売システムも構築されており、

人の不幸も密の味に繋がるように制度設計されています。 

最近の統計結果では新規住宅購入者二十代から三十代の

人達の頭金は一割もないそうで、中には頭金なしで住宅を

購入している人達もいるそうです。 

このような住宅ローンのリスク管理にはインターネット上の全ての

情報を監視し体系化して秘密裏に行われているのです。 

中国の監視社会は目に見える監視ですが、監視資本主義社会は

目に見えない監視で、個人が自由な意志で行動している

情報を巧みに利用し誘導するという、見えざる手によって操る

心理学をも駆使した手法なのです。 

巨大IT企業で開発や分析の仕事をして退社した人達の中には、

まるで麻薬のように抜けられなくする手法の開発をしているうちに、

自分自身もネット環境から離れられなくなってしまい、

良心の呵責に耐えかね退職した告白者が多くおります。 

フェイスブックの収益化責任者のテイム・ケンダル氏は提供する

サービスはユーザーの欲望や思想を取り込み釘付けにして

依存度を高める手法で、それはユーザーの為ではなく顧客企業

利益を最大化するためだったと語っております。 

また元グーグルプロダクトマネージャーのトリスタン・ハリス氏も

自分自身が依存症になった経験から、中毒性の高さを改善する

資料を作り多くの社員に共感され提出したが、サービス構造を

変えることは出来なかったと述べています。 

この本の著者はパソコンやスマホなどのネット依存者の心の内面に

注目しながら、最新技術に囲まれて育った若者世代にとって

この継続的な監視技術が心にどのような影響を与えるのか? 

そして消費者がどのような行動をするのか? 

そして何を信じるようになるのか? など

これからの人達に監視資本主義が恐ろしいほどの影響を

与えると思うと危惧を述べていました。

SNSを介した様々な事件や犯罪の原因にはネット依存がある

のですが、この依存症になる心理的な裏側には

他者にどう思われているか? という不安があり、

それは養育環境における自己肯定感の欠落が根底にある

と研究している学者さんが述べていて私も同感です。

経済活動が気候変動に悪影響を与え異常気象が頻発している

ように、テクノロジーが人間の心に与える悪影響が様々な形で

これから表出してくると思われます。

このような手法で巨額な利益を得ている巨大IT企業は

租税回避地に本社を移し巨額の法人税を逃れて

内部留保を厚くし権力に繋げているだけでなく、

それらが確実に更なる格差拡大を進めますので

社会は病んで行くだけでなく治安なども悪化します。 

私はオレオレ詐欺やネット詐欺などが横行しているのは、

まるで奴隷のように低賃金で長時間のサービス残業をさせられたり、社員と同等の仕事をしても派遣社員は低賃金の上にコロナなどの

不況時は解雇されたりしていることも原因に有ると思っています。 

社会の末端で真面目に働いても報われない思いをし続けたら、

『豊かな余裕のある者からむしり取って何が悪い』と思うように

なっていることも一因としてあるのでは? と私は思っていますが、

追いつめられた人が増加し徒党を組めば搾取している富裕者を

襲って奪う犯罪多発にも繋がると思います。 

現在家族以外に社会の中で信じられる人を持っている人が

どれ位いるのかな? と時々考えます。 

もしかしたら家族を入れても『この人は絶対に信じられる』と

思える人がいない人達が今はたくさんいるのではないか? 

と様々な事件を目にするたびに思うのです。 

そのような不信感には必ず不安が伴っており、それらの不安から

逃れるために無意識に日常生活でインターネットと繋がり続けて

おり、現在の切っても切り離せない変容に繋がっているのです。 

現在インターネット普及率は全世代でおよそ八十%、十代後半

から四十代の普及率は九十五%以上になっており、

ネットを通じて様々な人と出会ったり必要な情報が手軽に

入ったり必要な商品を片手操作で手に入れられますが、

その便利になった生活様式のデーターが実は巨大IT企業の

資金と権力に繋がっているのです。 

現在のネット普及率で私のようにカードを使わないという

身を潜める対処法は完全な敗北ですが、

こんな倫理に反する不公平に強い懸念を持ち続けて、

監視され続ける未来にどう立ち向かうのか? を考えないと

いけない状況が迫っていると思います。 

倫理的な一番の問題は『なぜ個人的な体験を未来の予測行動

データーに変えられるのか?』です。 

ノーベル賞受賞の山中教授はIPS細胞を使うと原理的には

新しい人造人間を作られるが、それをすることは人間としての

倫理に反するので厳しい倫理委員会で規制しているのだ

言っておりましたが、この問題も私は倫理的な面で同様の規制が

GAFAMなどの巨大プラットホームに対して必要なのでは? 

と感じています。 

一般的に社会では人間の尊厳を傷つける殺人・暴力・パワハラ・

セクハラなどを規制する法律があるように、製造企業には

公害を出さないように規制する法律が次々と施行されており、

このような法律の施工は直接的・間接的に他者に危害を加える

こと公平性 を損なうだけでなく人権を侵害しているからです。 

監視資本主義の進行は公正取引委員会で取り締まるべき

公平性を損なっており、また完全な人権侵害でもありますので、

生命倫理と同様に公益企業としての行動倫理に照らして

考えれば目に見えない公害でもあると私は思っております。  

巨大IT企業の租税回避地問題も世界規模で討議され始めて

いますが、社会の公平性を守るためにも個人行動の監視という

人権侵害行為を政治規制するためにも、巨大IT企業の

監視資本主義体制の是非を世界の政府規模で討議し

規制すべき時期が迫っていると思います。 

最近ヤフーがAIを使い罵詈雑言の投稿を阻止するシステムを

稼動させましたが、これからは各国政府がAI技術を使って

巨大IT企業の個人行動監視行為を、犯罪行為として監視する

システム作り早急に必要な時期が迫っていると私は思います。