フェミニスト。

 井上陽水の『フェミニスト』という曲を初めて聴いた時に

 太文字の歌詞が私の胸に突き刺さりました。

 以下がその歌詞です。

 

私、嫌いな男のタイプはフェミニストです
いつも言葉を探している様な
つまりステキな男のタイプはピアニストです
軽い気持ちを風にのせるから
私の夢はどこまで続く?
輝く空の下側で

風は夜風が運んでくるのよ エベレストから
乾いた肌がそれを感じます
私の耳を飾っているのは エメラルドです
青い響きを聞いてみませんか?
転がる音を 広がる音を
輝く空の下側で

私、望みは昨日の今日まで特にないです
別に誓いをたてた訳じゃない
私のそばを廻っているのはフェミニストです
いつも心の中をのぞく為
私は元気、あなたはいかが?
輝く空の下側で

 

フェミニズムとは女性解放思想のことで、性別による格差

を明らかにし性別に影響されない社会の実現を目指す

思想で、そのような運動を推し進める人達をフェミニスト

と呼んでおります。

日本では与謝野晶子や上野千鶴子などがフェミニストの

代表ですが、井上陽水独特の捉え方・表現の仕方が面白く、

太文字の歌詞などは自分自身を自虐的に捉えて歌っている

もので、私自身も同じような所があるので胸に突き刺さり

共感させられたのでした。 

特に『いつも言葉を探している様ないつも心の中をのぞく為』などは私自身の日常で、ピアニストの部分の歌詞なども私自身が

いつも羨ましく思っていた気持ちだったからです。 

井上陽水の歌詞には人の心の裏の裏を覗き込むような

屈折した部分があり、それに共感する私自身も屈折した

ものの考え方をするところがあるから陽水が好きなの

だと思います。 

入院中の寝たきりの時に、婿殿がピアノを伴奏し孫達が

歌っている映像を何度かスマホに送ってくれた時、

その映像を何度も楽しく見ながら羨ましく

『軽い気持ちを風にのせるから』歌詞がピッタリだと

思いながら見ていましたが、婿殿は 絶対音感を持っているので

聞いた曲をすぐピアノで弾けるから実に絵になっているのです。

私の音楽の趣味は聞くだけですが、クラッシックよりジャズの

ピアノ曲を聴いている時に『軽い気持ちを風にのせるから』が

ピッタリと嵌まり、山中千尋やビル・エバンスのジャズ・ピアノ

を聴いていると本当にうっとりさせられ羨ましくなりますが、

プロには別のみがあるのだろうな! という人の心の中を

覗く悪い癖がまた湧き出てしまいます。 

最近はリハビリを兼ねピアノ練習をしていますが、死ぬまでに

パッフエルベルのカノン一曲だけでも弾けるようになりたいと

頑張っていますが、なんとも果てしなく遠い道に思えます。

一か月ほど前に食事に呼ばれた時に、婿殿にカノンを弾いて

欲しいとお願いしたら、楽譜もないのにすぐに数種類の

アレンジ弾いてくれ、私には一番易しいバージョンを

勧めて聞かせてくれ羨ましくてよだれが出ました。 

過去に英語の勉強をしたときも、気軽に英語で日常会話が

できるようになりたいと思っていたのですが、英検二級に

合格しても結局話せるようにはならず挫折のままです。 

このきっかけは娘が中学に入学したときに『お父さんも一緒に

英語を勉強して』と言われNHKのラジオ英会話のテキストから

始め、その後は娘の使い終わった英語参考書などで仕事の暇を

見つけてやったのですが、最初の英検2級面接試験の英会話

試験は散々結果で、最後に合格したときも面接官の高齢者

への温情があったから今でも思っています。 

婿殿は数年アメリカの大学に留学していて、この英語も堪能で

私の羨むものを沢山持っているので、妻が元気な時には

『お父さんが望むものを沢山持っていて、羨ましいでしょう』

と言われていましたが、いつも『本当に羨ましいです』

答えておりました。 

しかし何事も手に入れるまでには人知れずの努力や苦悩が

伴っているのに、他者にはその成果だけが見えて羨ましい

のですが、その陰の努力や犠牲は見えていないだけです。

妻を亡くしてからは何かと二人から情けを掛けて頂き、度々

食事などに誘われ婿殿の日常を間近で見ていて、シャイな言葉

裏腹細やかさや身軽さにはいつも感心させられます。 

婿殿は料理も上手なのですが、それは留学時のアメリカの食事に

馴染めず努力・工夫した成果と聞いたとき、やはり苦労をして

手に入れたものと実感させられました。 

社会的地位や収入などは世間に目に見えて評価されがちですが、

私は 家族にしか見えず家族にしか評価されないものの方が

大切では? といつも思っていましたので、一度妻に

『私と結婚して良かったですか?』と聞いた時の答えが

『やわなくせに小生意気だけど優しいから良かったよ! 

 でも世の中にはもっと優しい男が必ずいると思うよ!』と

釘を刺され、返答に窮したのですが広い世界を見渡さなくとも

すぐ身近にもっと優しい男の人がいたのです。

間とは不思議な生き物で、似たような人間同士で

つるんでいると情緒が安定する所があるのですが、

男と女が良い関係を長く維持するための一番大事な

要素は倫理観の一致ではないか? 

私はいつも思っています。

  私の妻の楽しみは卓球や水泳やお笑い番組でしたが、

 私と共通したのは水泳くらいで、他は趣味も好みも

 性格も正反対でしたが、大事なこと選択・決断

 における倫理観だけ一致しておりました。 

 頭が良い悪いとか収入とか美しいとか優しいとかは

 出会い要素にはなっても、長い関係を維持していく

 ためには『日常のちよっとした瞬間に感じる善悪の

 基準が一致しない』と継続維持は難しいと思います。

この基準が違う出来事が続くと、何とも気持ちが

しっくり来ない違和感が積み重なり、やがて嫌悪感に

繋がって破綻するような気がしているからです。 

ですから極端な言い方をすると、意地悪な人は意地悪な人

共に・欲深い人は欲深い人と一緒だとお互いに居心地が

良いのでは? と思いますし、その結果として夫婦仲が

良いので子供にとっても居心地が良いと思うのです。 

弱者である子供にとって貧乏なことよりずーっと辛い

ことは、親からの暴言や暴力と両親の不仲が一番傷つく

ことで、倫理観は成長するに連れて意地悪や欲深い親を

反面教師にしたり、社会の人達から学んだりすることが

できると思います。

一般的には学歴や知性が倫理観と比例しているように

考えがちですが、最近は高学歴の人が知性を悪用する

という倫理観の低い教養のない人が増えているような

場面が多く見受けられます。

最近の例では高学歴の若いキャリア官僚がコロナ対策の

持続化給付金詐欺を働き贅沢な生活をしていた事件や、

医学部の学生達が集団で女性を強姦した事件も過去にあり、

私は表面化しないだけで他にも沢山あると思っています。 

コロナは家庭状況も不安定にし鬱病を増やしておりますが、

脳で何か嫌な事ばかりを考えていると次第に頭の中で

現実化してしまうから鬱になるのだと思います。

そんな時には青い空や流れる雲を見たり、好きな音楽を

聞いたりするようなことが大事で、体を動かしたり文化的

なものに触れたりすると日常の積もり積もったストレスを

緩和する役目を果たしてくれると思います。

人間の作った文化とは様々な人がそれぞれの好きなもの

表現した創造物のゴミ箱みたいなものですが、

その文化が人間生活にとって必要不可欠だから継承され

創造され続けているのだと思います。

 コロナや災害などで心理的に不安定になったときほど、

 自分好きな絵や音楽や本やスポーツや美味しい物に

 触れて、心の向きを変えるような楽しみによる

 非日常体験である文化的なものが必要なのです。 

 きっと文化の最も重要な役割は日常のストレスを

 和らげたり消し去ったりする心の解毒・清浄作用

 なのだと思います。 

 妻にあまり好かれなかった私の音楽の趣味は、

 今の私のひとり身の寂しさを癒し続けてくれています。 

 二十代から聞き続けている井上陽水や吉田拓郎の歌は

 一瞬で想いの過去へ誘ってくれ、クラッシックや

 ジャズは私を別世界へ誘いしてくれ、寂しさでかなり

 へこんだ時など演歌かけて一緒に歌っています。

 今の娘のストレス緩和策は空いた時間を見つけて通う

 ピラティスやジョギングで、婿殿は家庭菜園や

 今はトライアスロンの練習が非日常の楽しみのようで、

 前回のオリンピックディスタンスは完走したので

 今月ステップアップしてより長い距離の

 ミドルミドルディスタンス(水泳1.9Kmバイク90.1Km

 ラン20.1Km)に挑戦する予定だったのですが、

 コロナで一カ月延期になったそうです。

 無事の完走と帰宅をひたすら願っておりますが、

 人間に仕事と家庭以外の楽しみを家族それぞれ

 持つことが心の健康維持に必要なものだと思います。

 孫のお姉ちゃんはもう判ってきて、お父さんに似てシャイ

 なので陰で私にお父さんはすごカッコイイんだよ』

 と自慢し子供達にもいい刺激になっており趣味は

 子育て後ふたりの時間も有意義にすると思います。 

 フェミニストの歌詞は女性が主人公で、

 『私のそばをっているのはフェミニストです』と

 歌っているので、私の勝手な解釈で恋人かな? 

 と思っていますが語源的には女性の味方だけど

 心を覗く嫌いなタイプフェミニストの男と一緒にいて、

 おしゃれをして夢を見ている日常の中に幸福感が

 きっとあるから『私は元気、あなたはいかが? 

 輝く空の下側で』と結んでいるのだと思います。 

 『フェミニスト』を聞くといつも妻が私のことを

 皮肉ってっているように感じています。

 いつも普通のことを小難しく言い、心の中を覗く

 嫌いなタイプの私と長い年月一緒に暮した妻との

 生活を想い出しながら聞いています。

 その妻に『あなたは本当にお子ちゃまだね!』

 言われたことを、婿殿とビールを飲むたびに想い出します。

 それは婿殿が缶ビールの蓋を片手で一瞬に開けることで、

 時々家で真似をしても開けられず『悔しい!』と

 言うたびに妻に言われた言葉でした。

 今でもその瞬間を見ると妻の囁きが聞こえて来ます。

 この日は婿殿が幻想即興曲の楽譜を出してきて弾いて

 くれたのですが、およそ二十五年ぶりに生のピアノで

 この曲を聞き娘が中学生だった時代の生活を想い出し

 幸せな気持ちになって帰宅しました。