眠っている欲望と不安を刺激する。

資本主義社会のメディアによる広告・宣伝の進化は心理学をも駆使して大衆を誘導するのですが、一般大衆はその見えざる手に誘導され続けていて、その手口の巧妙化には恐怖すら感じています。

『金の病か? 死の病か?』と並び評される位に、このふたつの病からは逃れられないように人間は出来ているのか? と思わされるように、金儲けの為に人は詐欺も含めて知恵を絞ります。

ビジネスは詐欺と違い合法のようですが、最近は合法を装った詐欺に近いビジネスが横行しています。

誰も欲しいと思っていない物を欲しいと思わせるように誘導し、眠っている人間の欲望を、相手の無知につけ込む邪悪な方法で欲望を刺激し誘導して物を売るのが現代の広告手法になりました。

この洪水のように溢れる宣伝広告は便利にします・健康にします・魅力的にしますと洗脳するように繰り返し、気が付くと多くの無駄な物を買うように駆り立てますが、何処の国でも豊かになると物質主義に陥るのも人間の宿命のように思えます。

少しでも余分なお金ができると生活水準を引上げようと努めるのも人間の宿命的要素ですが、最近は少子高齢化社会になったので戦略を練り直し、高齢者詐欺と同じような手口で高齢者の健康不安に的を絞り、不安を煽ってから物を売りつけています。

テレビは視聴率を上げないと広告収入を増やせないので、最近は高齢者ターゲットでどこのテレビ局も医者を並べて病気の症例と共に対策を放映するのも広告収入の為で、特に認知症に関する番組は視聴率が高いので異常に多く見られるようになりました。

番組間のコマーシャルもサプリメント関連が異常に増え、初回は無料・使用後でも効果がなければ返品OKなど、まさに寝ている子を起こすように欲望を刺激したり・不安に陥れたりして、あたかも人の為のように振る舞いながら物を売っています。

弁護士や医者がテレビに喜んで出演するのも、本業が厳しい時代になっておりますので、多額の出演料をもらえる上に有名になれば本業でも儲かることに繋がり、政治家に転身したり勤務医からスポンサーを見つけて独立した医療法人設立など、様々なメリットが視聴者には見えない所で進行していて、その結果としてテレビ局・スポンサー・出演者の三者の利害が一致しています。

情報化社会とは言っても高齢者はテレビ・新聞信仰が強く、若者はインターネット信仰が強いので広告にお金を出す企業はマーケティングをして無駄をなくすような細かな選別もしています。

最近豊かになり始めた中国人の爆買の報道でも、高度成長時の日本人も欧米で同じことをやっていたと私は自重させられています。

私も便利な物には目が行ってもリテラシーを心掛けて思うことは、何百万もする時計や何千万の車など持って不安はないのか? 

自分が額に汗したお金なら買わないのでは? と思っています。

時計は時間が判れば良いし、車はある程度のもので安全に目的地に行ければ良いのに、人が羨むものを持ちたがる事を自分自身へのご褒美とか価値観の違いと言いますが、ちょっと違うと思います。

私が借財で苦しんでいる時、十年間ほど生活必需品以外買えない生活をしていましたが、我慢の限界を感じたストレスから爆発した妻が『もう我慢の限界、何でもいいから何か新しい物を買おう』と言ったのが答えで、私も同じストレスを感じていました。

それはお互いに懸命に働いている様子は目にしていますが、店舗併用住宅を持った生活に慣れ親しんでも、ほとんど銀行への返済で消えていましたので、収入を消費している実感が持てないイライラからバランスが保てなくなっていたのだと思いました。

それからは時々目に見える形の安い物を買い替え、自分達の気持ちを消化するように努めたのを覚えています。

無人島に住んで高級車を買う人はいないように、人は他者との関係性の中で考え生きている動物で、他者と比較をして羨み・蔑み・嫉妬し・尊敬し・共感して生きていて、それらが複雑に絡み合って消費行動も決断していて、その選択と決断はその人の不足な何かを消化してバランスを取ることを無意識に行っています。

お金持ちの不肖の息子が、働きもせずに高級車に乗って贅沢を繰り返しても充実感は持てないので、より空虚な気持ちを埋めるために誰もが羨むような消費を繰り返した果てに、麻薬のような不正な物に手を出し破綻に向かう選択をすることも、実は虚しさによるバランス不均衡が無意識に働いているのでは? と思っています。

他人は騙せても自分自身は騙せない苦悩は、努力して打ち破れない壁で苦悩している状況とは比べ物にならない底なしの苦悩で、私は自分自身を騙す行為を『自分で自分にかける呪い』と言っていますが、この自分でかけた呪いは自分では解けず、誰かに解いてもらう以外ないのが厄介な所なので、良い出会いがない人は犯罪という破綻でしか歯止めが効かないからでは? と思っています。

ここで四十年近く沢山の固定客で商いをして来て、高齢で元気な方達に共通している特徴は、人への依存や甘えが少なく、何事にも前向きな働き者で体をよく動かし、あまり他人の悪口や噂話を好まず、威張らずに日常会話を自然にできる人達です。

楽をして贅沢を望むこともなく、苦労や苦悩があってもしょうがないと受け入れ、ただ日々を平穏に過ごすことだけを願って体を動かしているから元気なのだと思います。

このような人達は欲望を刺激し物を売りつける広告とは無縁な世界で過ごしていて、自分が知っている最低限の物だけに囲まれて生活しながら、五感と季節を大切に生きている傾向があります。

新自由主義の台頭から企業競争も激しくなり、手段を選ばない傾向が強くなって、人の不幸につけ込んだり甘いエサで誘導したりして物を売る傾向が大企業でも当たり前になって来ました。

全国放送のテレビ通販でパソコンが4000円と謳って販売していますが、実は通信回線の契約と長期契約が義務づけられていて、その金額が高いので通販会社にキックバックされていると思います。

プリンターなども安い価格で販売し、消耗品のインクリボンの消費が早く・高い価格に設定していますですので、そのプリンターを使っている間はインクで収益が出るように仕組まれています。

まるで紐のついた1万円札に誘導されているようですが、最近は自動車業界も販売収益より修理(特に保険適用の修理)が収益部門に捉えるようになり、どの業種でも消費者を長期にわたって囲い込みゆっくり血を吸い上げる吸血鬼パターンになりました。

そんな流れの現代は、共生などと建前では声高に使うことが当然になり、本音のエゴでは誘導した顧客が困ってたとしても、選択・決断した人の自己責任だから合法的と実は思っています。

メディアリテラシーという言葉がありますが、情報チャンネルの増加に伴う過度な情報化社会の荒波の中を、未来の子供達が生き抜けるようにする為には、現在の狡猾な大人達に利用・騙されない為にも現在の義務教育の中にメディアリテラシーの科目を入れて教育しないと、知的強者によって知的弱者(善良な人でも)が食い物にされ社会的弱者へと追い落とされる事に繋がってしまいます。

このままでは金の病はもっと拡大し、より狡猾な人間達が支配する階級社会になるような怖さを予感しながら広告という社会の窓を眺めています。