妻の積年の恨み。

香港マカオのカジノの売り上げが米国のラスベガスを抜きましたが、その記事を昔読んだ時に客層を調べてみました。 ラスベガスはアラブ系と世界各国からですが、マカオの八割が中国の成金で、その増え方は尋常ではないのでラスベガスのカジノも大挙してマカオに進出し続けているとの事で、バブル成金の中国人は三十年前の日本人と同じとの事でした。 『あぶく銭』とはよく言ったもので、汗を掻いて稼いだお金は『身銭』なので大事に使いますが、所詮『泡』ですので博打になるのでしょう。 

結婚当初、私は東京でトヨタのセールスマンをしていて調布で働き小平に住んでいました。

入社してすぐの交通事故の負債の返済で我慢し続けた反動からか? 返済後は欲望に従順で欲しいものを手に入れしたい事をやっていて、結婚まで稼いだお金は有るだけ使っていました。

しかし妻は結婚後すぐに六十万円もの貯金を持っていると話し通帳を見せてくれました。 

私は結婚したら一心同体と思いそのお金を当てにし、顧客のお金を入金せずに府中競馬場へ通い(会社から車で15分位)、一ヵ月で六十万円の穴を空けて女房の貯金で月末に入金した前科が有ります。 

その時に二度としないと念書を書きましたが、納得出来ず最後の一回と決めて十万円負け博打は胴元が儲かるものと思い知りました。

その二度とも妻は悲しそうに『お願いだから、もうやめてね』と静かに通帳を出してくれましたが、私は求めていた母性をもらったように感じたのを今でも覚えています。 

自分が汗を掻いて稼いだお金ではないものを、育ちの悪い者に預けると悪い方の好奇心に使ってしまう典型の例です。 私は娘が子供の頃から、どんな失敗談も隠さず娘に話していましたが、人間は失敗しないと身に付かないので、臆病にならずに好奇心の有る事には挑んでとお願いしていました。 

そんな娘が大学四年間親元を離れて肌で世間に触れてから、社会的な分別や状況より好奇心を優先して行動する私に『お父さんは本当にお子ちゃまだね』と一緒に行動する度に言われますが、いつもそれを聞いた女房が『本当に、手に負えない奴』と怒りながらも一番喜んでいます。 

これはたぶん妻の積年の恨みの代弁者への賛辞と自戒しています。

それ以後はあぶく銭と思うものには手を出さずに、ひたすら汗を掻いて稼ぐ身銭以外は手にしなくなりましたが、妻の怨念は残っていて四十一年経過した今も時々言われています。